相続放棄の手続き・手順 実体験を交えて説明します。
父の死後15年経過後に信用保証協会からの通知で父が某社の連帯保証人だったことを知り、相続放棄しました。
具体的な手続きと手順を説明します。
手順1:役所から必要書類を取り寄せる
相続放棄を裁判所に申し立てるときに添付する必要のある戸籍証明書類が何点かあります。
戸籍附票や戸籍謄本などの書類で、市町村役場に申請して発行してもうらうものです。
必要な書類は、相続放棄をする人と被相続人の間柄によって違います。
それぞれの必要書類はこちらに
法律事務所に相続放棄を依頼した場合は、たいてい、この作業も請け負ってくれると思います。
(私が依頼した事務所ではすべてやってくれました)
手順2:相続放棄申述書作成
必ず必要なのが「相続放棄申述書」です。
相続放棄申述書
裁判所へ行けば用紙が置いてありますが、申述書の用紙は裁判所のサイトからダウンロードすることもできます。
相続放棄する人が20歳以上の場合
相続放棄する人が20歳未満の場合
1枚目「相続放棄申述書」とある箇所の下の空欄に800円の収入印紙を貼ります。
借金(マイナスの財産)のほうが資産(プラスの財産)よりも多いと言う理由で相続放棄するなら、2枚目の「放棄の理由」は「債務超過のため」、「相続財産の概要」で資産と負債、それぞれの額を記載します。
ないものは空欄で構いません(たとえば「農地」など持っていないと言う場合、「相続財産の概要」の「農地」は空欄のまま何も書かなくていいです)
添付書類整備
必須ではなく、ケースバイケースで添付するものですが、債務を示す書類は出した方がいいでしょう(私のケースでは保証協会からの通知書)
また、私の時には弁護士さんが「上申書」というのを作ってくれて、そちらも添付しました。
信用保証協会からの通知書コピー
私の場合、債務を明示するものがこれしかないので、通知の写しを添付しました。
保証協会以外の債権者からの知らせがあって相続放棄する場合も、何かその債務の存在を示す書類があると思います。
それをコピーして申述書に添えてください。
上申書
必須ではありませんが、弁護士さんがこれを書いて添付してくれました。
決まった用紙はなく、ワードらしきものでタイプされた文章です。
上申書には
- 父の死後15年以上が経過してから相続の事実を知ったきっかけ
→信用保証協会の通知が来たから - その債務の存在をこれまで知らなかった理由
→父が連帯保証人になっていることを聞いていなかったことと、父の死の数年前から父とは別の場所で暮らしていたため、父と話す機会も少なく、債務の存在を想像するのも難しい状況だったこと
が書かれていて
- よって、私が「自己のために相続の開始があったことを知った時」は、被相続人が連帯保証人だったことを知った日(保証協会の通知が届いた日)である。
…と、このタイミングで相続放棄を申し立てることになった理由、言い換えれば、この時私はまだ「相続の事実を知ってから3ヶ月以内」にあると主張する根拠が説明されています。
全部で500字くらいの文章です。
手順3:収入印紙と郵便切手を用意
相続放棄の申し立てには800円の収入印紙と郵便切手が必要です。
収入印紙は、上に書いた通り相続放棄申述書に貼ります。
切手は「予納郵券」と呼ばれるもので、必要な切手と枚数は裁判所にって違うようです。
裁判所に確認してください。
私の時は、82円切手3枚と10円切手2枚でしたが…違う可能性もあるので念のため管轄の裁判所に確認を。
(2015年のことなので当時は80円切手と8円切手でしたが、分かりやすくするために現在の切手の価格で説明しました)
詳細
家庭裁判所で代表的な手続について,予納郵便切手の内訳等をご案内します
手順4:裁判所へ申し立て
提出するものは揃いました。
提出するものとは
- 相続放棄申述書(800円収入印紙貼付)
- 添付資料(債務の通知などや必要に応じて上申書など)
- 住民票、戸籍謄本など役所に請求した書類一式
- 予納郵券
です。
これを裁判所に提出します。
どこの裁判所に提出するのか
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。
亡くなった人(父親の債務を相続放棄するなら父親の)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所ということです。
住所地=住民票のあった場所です。
引っ越して住民票を移転する前に亡くなった場合には、引っ越し前の家の場所になります。
管轄の裁判所はこちらで調べてください。
※簡易裁判所ではありません。地方家庭裁判所です。
相続放棄申述書を郵送する方法
近所であれば裁判所へ行って申述書等を提出すればいいのですが、郵送でも受け付けてもらえます。
郵送する方法に定めはありませんが、重要なものですので配達記録等を使うのがいいと思います。
私の依頼した弁護士事務所ではレターパックプラスで郵送してくれたようです。
普通郵便では相手方に届いたのかどうかを確認することができません。
配達記録(特定記録)郵便は、受取人の受領印を受けることはありませんが、発送したことを郵便局で記録しておいてくれます。
レターパックプラスは受領印を受けます。
万が一送付物が紛失した時のため、発送したことか受け取られたことのいずれか証明できる方法を取ってください。
相続放棄申述書送付の宛名
宛名に部署等を明記しろとの決まりはありません。
〇〇家庭裁判所 ××支部 御中
で大丈夫です。
念のために「相続放棄申述 ご担当者様」と付け加えるか、「相続放棄申述書在中」と書いておいてもいいと思いますが、書かなければいけないわけではありません。
手順5:裁判所から送付される照会書に回答して返送
申述書を送ってしばらくすると裁判所から「照会書」というものが送られてきます。
照会書には、「相続放棄の申述についてあなたの意志を確認したい」旨が書かれていて、別紙「回答書」にいくつかの質問が並んでいます。
回答書の空欄に質問に対する答えを記入して署名捺印後、照会書にある期限日までに(私の時は2週間後が期限でした)裁判所へ返送してください。
回答書の記載は、原則的に相続放棄をする人本人でないとできません。
裁判所によって代理人が書いたものに申述人が署名捺印すればOKという場合もあるようですが、本人直筆を求められることが多いようです。
代理人になれるのは弁護士資格の保有者だけです。司法書士は代理人にはなれないので、司法書士さんに手続きを依頼した場合は、いずれにしろ自分で書くほかありません。
この回答書が…
質問の中には、文章で回答する必要のあるものがあります。
ここでは、「必要なことは残らず書き、不要なことは一切書かない」これが鉄則です。
ここに不用意なことを書いて相続放棄が認められなかったケースもあるそうで、怖いのですが、通常、相続放棄などそう何度も経験することはなく、たいていは人生で1回程度。
どうやって不用意な回答をする危険を避けたらいいのか分かりません。
記載に際して弁護士、司法書士からアドバイスをしてもうらことは可能なので、相談してみるのをおすすめします。
複雑な事情がある場合などの回答は、法律の素人には荷が重く、失敗すれば取り返しのつかないことになってしまいます。
回答書に関するその他の注意点
捺印に使うのは、申述の際に使ったのと同じ印鑑を
相続放棄申述書に捺印したのと同じ印鑑を使う必要があります。
相続放棄申述書を弁護士さんに書いてもらった場合には、委任状に捺印したのと同じ印鑑で。
身分証明書のコピーを同封する必要があります
運転免許証や健康保険証等の身分証明書のコピーを同封する必要があります。
私のところに送られて来た照会書には「運転免許証、保険証等」とあるだけで、他の身分証明書、たとえばパスポートなどではどうなのかとは書いてありませんでした。
ただ、マイナンバーは使用できないと明記されていました。
マイナンバーカードのコピーは、相続放棄申述の身分証明に使えません。
どの身分証明書の写しが使用できるのか不明で困る場合には、裁判所に問い合わせてください。
照会書には、担当官の名前と電話番号が書いてあるはずです。
また、コピーの用紙サイズに指定があるかもしれません。
うちに来た照会書には「A4でお願いします」とありました。
指定は各裁判所によって違うと思いますし、指定がないこともあると思います。
照会書をよく見て注意書きに用紙サイズ指定がないか確認してください。
手順6-1:裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送られてくる
回答書を返送すると、裁判所で相続放棄を受け付けるか棄却するかが決定されます。
相続放棄の意志が受理されれば「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。
うちでは、回答書返送から2週間後くらいに届きました。
手順6-2:相続放棄申述受理通知書のコピーを信用保証協会に送る
相続放棄申述受理通知書が届いたら、債権者にそれを知らせましょう。
ここでは信用保証協会から債務を通知されたことが発端のケースの話をしているので、保証協会に知らせることになります。
私の場合ですと、保証協会の人は「FAXでもいいですよ」と言っていましたが、FAXで誤送信したらイヤだなと思ったので郵送しました。
「受理通知書のコピーを送ってくれればいい」とのことだったので、原本はこちらで保管したままコピーを郵送しました。
というより、通知書は再発行してもらえないものです。
原本は必ず手元に置いて、なくさないように保管しておいてください。
送り先は、信用保証協会が送ってよこした通知書等にある住所です。
担当者の名前が書いてあると思うので、その人宛てに送ってください。
うちの場合は
保証協会債権回収株式会社○○営業所
△△ ×× 様
という宛名で送付しました。
担当者が分からない場合は、〇〇営業所 御中 でも大丈夫と思いますが、電話をかけて誰宛てに送ったらいいのか聞けば教えてくれるはずです。
保証協会は債権取り立てを淡々と事務的にやっている人たちです。まったく怖くありませんので(笑)
相続放棄申述受理証明書が必要な時は
もしかすると債権者が「相続放棄申述受理通知書」ではなく「相続放棄申述受理証明書」が必要だと言ってくるかもしれません。
(私のケース=信用保証協会の相続債務のケースでは、通知書でOKでした)
そういう時は、裁判所に証明書を請求すれば送ってくれます。
うちに受理通知書が送られて来た時には「証明書の申請書」も同封されていました。
証明書が必要なら同封の申請書に必要事項を記入して返送してくださいと。
申請の際に一緒に送るものは
- 相続放棄申述受理証明申請書
- 収入印紙(証明書1通につき150円です。2通なら300円)
- 返信用切手82円
- 相続放棄申述受理通知書のコピー
- 身分証明書のコピー
です。
身分証明書はやはりマイナンバーカードは不可です。免許証、健康保険証ならOKですが、それ以外のもの(パスポートなど)については、裁判所に確認してください。
証明書が返送されたら、債権者に提出します。
こちらがすることはこれで終わりです。
受理通知書を送付したら
信用保証協会に相続放棄申述受理通知書コピーを送ってから数年経ちますが、それきり何の音沙汰もありません。
返済要求もありませんが、「あなたは法廷相続人ではないので以後請求はしません」等の連絡もありません(いりませんが)。
相続放棄申述受理通知書(証明書)は葵の御紋ではありません
…とは言っても…
これは裁判所が相続放棄の申し立てを認めたという意味であって、債権者は相続放棄した旨を知らされた後も債権回収を目的とした訴訟を起こすことが可能ではあります。
相続放棄に問題がなければ争う余地もなく、無効になることもないはずなので、過度に心配する必要はありませんが、裁判所からの通知書を受け取ったからといって100%債務を逃れられるとは限らないことは、ちょっとだけ頭に入れておいて下さい。
弁護士・司法書士に依頼した場合
お気づきのことと思いますが、以上の手続きは弁護士、司法書士に依頼するととても楽です。
私は、父の死後相当な時間が経っていて、相続放棄までの間が開いていることもあって、弁護士さんにお願いしました。
その場合にこちらでやらなければならないことは
弁護士さんに事情を説明して、相続放棄の手続きを依頼
発覚した債務が保証協会のものであることや父に資産はないものと思って相続関連のことはすべて放置していたことを伝えてから、正式に依頼しました。
委任契約書を交わし、委任状に署名
委任契約書は、もちろん弁護士事務所で作ってくれます。
「相続放棄申述事件」について着手金はいくらで報酬金はいくら、実費負担はこちら等、契約内容が書かれた書面に、住所氏名を書いて捺印します。
裁判所へ提出するための委任状には、私が手続きを弁護士の誰それに委任する旨が書かれているので、同様に署名捺印。
※この時委任状に捺印した印鑑は、後で裁判所から送られてくる回答書への捺印にも使用します。(同じ印鑑である必要があります)
※どの印鑑で捺印したのか分からなくならないよう、委任状のコピーを取っておくと安全です。
この2つの書類を弁護士事務所に出せば、あとは回答書が届くまで何もすることはありません。
市区町村役場に各種書類請求…ノータッチ
相続放棄申述書作成…ノータッチ
印紙、予納郵券の準備…ノータッチ
管轄裁判所を調べる…ノータッチ
裁判所へ申述書送付…ノータッチ
照会書のへの回答
これだけは、申述人本人が直筆で書く必要があるので、ノータッチと言うわけにはいきません。
でも、どの質問にどう答えたらいいのか、すべて指導してもらえました。
照会書への回答が一番の難所です。
ここをアドバイスしてもらえたのが一番助かりました。
照会書の書き方を相談できるかどうか、契約する前に確かめてください。このサービスがあるのとないのとでは全然違いますし、回答書の書き方で相続放棄の成否が分かれることもあります。
相続放棄申述受理通知書(あるいは証明書)を債権者に送付
私は自分で直接信用保証協会に送りましたが、これもたいてい代行してもらえます。
もっとも、裁判所からの受理通知書は申述人の自宅に送られるので、どの道一旦は弁護士事務所に郵送することになります。
最後の郵送は自分でやっても同じですね。
よほどシンプルな相続放棄以外は弁護士、司法書士に依頼するのをおススメします
「よほどシンプルな相続放棄」というのは、被相続人の死亡の直後に申し立てる場合で、資産も負債も単純な場合です。(資産はほぼまったくなく、借金だけがあるとはっきりしている場合)
であれば、死亡から期間の開いた理由を説明する必要もなく、相続放棄する理由も明快なので、作る文書もシンプルに済んで簡単ですし、申立に失敗する可能性も低いでしょう。
あるいは、相続放棄する負債の額が少額で、最悪相続放棄を却下されても致命的というほどではないという場合も、弁護士費用を節約してご自身で手続きしてもいいと思います。
相続放棄の弁護士料の相場は大体10万くらいです。
相続放棄に失敗したときに背負うことになる負債と、申し立ての難易度、弁護士費用。この3つのバランスに相続放棄にかかる手間と時間を加味して決めてください。