ザ・テラーの怪物トゥンバックはイヌイット神話に付け加えられた創作です

ドラマ「ザ・テラー」は、隊員が全滅した1845年のフランクリン遠征を題材にしたフィクションです。

北極の地でフランクリン隊に何が起きたのか、なぜ隊員は全員死亡したのか、真相は分かっていません。

でも「ザ・テラー」は判明している事実を最大限に織り交ぜて作られた物語でもあります。

詳細はこちらに

その中で隊員を悩ませる怪物トゥンバックは、明らかな創作であり、異質の存在です。

トゥンバックは、なぜ隊員を襲ったのでしょう?

イヌイットシルナ(レディ・サイレンス)にとってトゥバックとはどんな存在だったのでしょう?

ドラマでは漠然としか正体の語られないトゥンバックですが、ダン・シモンズの原作「ザ・テラー 極北の恐怖」では、詳細が明らかにされています。

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トゥンバックはイヌイットの神話?

小説を読むとトゥンバックが何だったのかは分かるのですが、読み終えてもやっぱり疑問な点が。

「トゥンバックはイヌイット神話なのかダン・シモンズの創作なのか」ということです。

原作の中でイヌイット神話の一部として説明されるトゥンバックですが、確認のために検索しようにも、まずトゥンバック(小説では「トゥウンバク」と表記)のスペルが分かりません。

それらしい綴りをGoogleにぶち込んで「Tuunbaq」だと判明。

でもTuunbaqがInuit(イヌイット)のmythrogy(神話)だという話は出てきません。

ヒットするのは「ザ・テラー」の記事ばかりです。

さらに調べるとトゥンバックはダン・シモンズがイヌイット神話に付け加えた創作だと、TVシリーズ「ザテラー」のデザイナーDavid Kajganich氏が話していたという記事がありました。

参考:Exclusive: The Terror concept designer Neville Page on bringing the Tuunbaq to terrifying life

原作「ザ・テラー極北の恐怖」の中のトゥンバック

北極のオーロラ

原作終盤で語られるお話を要約すると…

ずっとずっと昔、魔術に手を染める一派がありました。

彼らが召喚した邪悪な怪物「トゥピレク」は、創造主の命令で人を殺し、殺すたびに力を増していきますが、殺人に失敗すると今度は創造者を殺す習性も持っていました。

ある日、海の精霊「セドナ」が、大気の精霊と月の精霊に腹を立てる出来事がおきます。

セドナは大気と精と月の精を殺すためトゥピレクを作り出します。

巨大で特別な力を持つこのトゥピレクは「トゥンバック」と呼ばれるようになります。

セドナはトゥンバックを月の精霊シラの元へ送りますが、一万年の闘いの末、トゥンバックはその暗殺に失敗してしまいます。

標的を殺せなければ自分が殺されると察知したセドナは、トゥンバックが海へも精霊の世界へも戻れなくなる呪文を唱え、北極へと追放しました。

取り残されたトゥンバックは生物の魂を食べて生き永らえ、やがて精神の複雑なものの魂のほうが美味であると気付きます。

アザラシやセイウチよりも人を食うことに喜びを見出したトゥンバックを抑えようと、よりすぐりのシャーマンたちが北へ向かい、トゥンバックといくつかの協定を結びました。

トゥンバックと想念で会話することのできたシャーマンらは、人間とは口を利かないと誓い、その証に舌を捧げました。かわりにトゥンバックは人を食べるのをやめると約束します。

また、最北の地はトゥンバックに明け渡し、人間はトゥンバックの領地で暮らしたり狩りをしたりすることはないと、棲み分けの契約も交わします。

こうして平穏が訪れますが、シャーマンたちは、トゥンバックの地に青白い人々がやってくるとき、この秩序は終わり、トゥンバックは白い人々の毒で死ぬと予知していました。

…と、こんな感じです。

上記のお話のうち、セドナというのは実際にイヌイットの神話に出てくる精霊です。

父親に船から突き落とされ、すがりつく指を切り落とされたセドナは海の精霊になり、アザラシもセイウチもセドナの指から生まれたことになっています。

トゥンバックのパートは、セドナの神話にダン・シモンズが付け加えたものです。

原作とドラマではちょっと違うトゥンバックの立ち位置

ザテラー-トゥンバックが隊員を襲った理由

ドラマ「ザテラー」のトゥンバックは、イヌイット社会から愛玩される生物のようにも見えますが、原作では恐れ敬われる存在です。

上記の話の中にあるトゥンバックと交信できるシャーマンは、「シハム・イエウア」と呼ばれていますが、シルナはシハム・イエウアなので物語に登場したときから舌がありません。

トゥンバックはなぜ隊員を襲ったのか

原作とドラマで設定に多少の違いはあるものの、どちらのトゥンバックもイヌイットと敵対している様子はなく、フランクリン隊の隊員だけを襲っています。

人間との間で交わされた約束を破り、自分の土地に侵入してきたカブロウナ(イヌイットの言語で白人のこと、kabloona)への怒りだったのでしょう。

原作のトゥンバックは死なない

原作で「カブロウナの毒で死ぬ」と予言されるトゥンバックですが、死ぬのはドラマだけで、原作では生き続けます。

そして、イヌイット社会で生きることを決意したフランシスと再会して…

ここまでにしときましょう。

原作とドラマは、色々と違います。全然違うと言ってもいいくらいです。

原作にはにダン・シモンズの込めたテーマが鮮明に表れていて、結末ではちょっと考えさせられます。