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アメリカン・スナイパー 戦争の勝敗や意味に関係なく兵士の犠牲は多大

2018年12月24日

「映画に出てくる米軍は弱い」という謎の持論をくつがえす作品「アメリカン・スナイパー

弱くないですか?映画の米軍。

「プライベートライアン」とか「カジュアリティーズ」とか「プラトーン」とか「フルメタルジャケット」とか「ブラックホークダウン」とか「ローンサバイバー」とか…

「あら珍しく勝ってるじゃん」と思ったら「父親たちの星条旗」でちょっとむかついたり。

イーストウッドだと強い米軍なのかしら。まあいいや。

そんな「アメリカンスナイパー」

主人公クリス・カイルは実在の兵士で、クリスの著書「ネイビーシールズ最強の狙撃手」が原作です。

第87回アカデミー賞・音響編集賞作品。その他受賞歴はこちら

アメリカン・スナイパーの登場人物とキャスト

主人公クリス・カイルとその家族

クリス・カイル…実在の人物クリス・カイルがモデル。

ネイビーシールズの一員として赴いたイラク戦争で狙撃の才能が開花。
米国側からは「伝説の男」イラク側からは「ラマーディーの悪魔」と呼ばれる。

演:ブラッドリー・クーパー

タヤ…クリスの奥さん

結婚するとすぐにクリスはイラクへ向かう。

演:シエナ・ミラー

ジェフ…クリスの弟

お兄ちゃん子で兄の後を追うように入隊するが、あまり兵士には向いていないよう。

演:キーア・オドネル

タヤご本人もきれいな人です。

この↓動画でクリスについて話しています。(1分すぎあたりから)

イラク武装勢力サイドの人物

ムスタファ…イラクの狙撃手

出身はシリアで五輪の代表選手だったこともあるスーパースナイパー…という設定

(ムスタファという狙撃手は実在する模様。スキルの高さや五輪出場経験などは映画に付け加えられた創作要素)

演:サミー・シーク

ザルカウイ…アルカイダのナンバー2

米軍はザルカウイを探す過程で「虐殺者」と呼ばれる男の存在を知る。

映画にザルカウイが登場する場面はない。

※ザルカウイはその後2006年アメリカの爆撃で死亡。

アミール・ハラフ・ファヌス…ザルカウイの右腕

付近の住民から「虐殺者」と呼ばれる残忍な男。

好きな武器はドリルで、米兵と接触のある地元住民を見つけるとドリルを突きつける。

当然突きつけるだけでは済まず、突き通すというか…

演:ミド・ハマダ

アメリカン・スナイパーのあらすじ

※8割がたネタバレしちゃってますが、実話ベースの映画なので、元々ストーリー大枠を知ったうえで見るのが前提のものです。ネタバレ読んじゃってもそう支障はありません

アメリカンスナイパー予告動画

アメリカンスナイパーあらすじ

テキサスのカウボーイ、クリスは、30近くなってからネイビーシールズに志願します。

厳しい訓練を受け、ようやくシールズの一員と認められたころ、美しい女性タヤと出会い結婚しますが、新婚生活を楽しむ間もなくイラクへ派遣されることになります。

身重の妻をアメリカに残すクリスが赴いたのは激戦で知られるファルージャでした。

イラク-ファルージャ地図-アメリカンスナイパー
PublicDomain

クリスには、たいへんな狙撃の才能がありました。

一発必中の長距離狙撃を次々に決めるクリスは、まだ戦闘の終わらないうちにレジェンドの称号を与えられます。

そうした中、アルカイダの大物ザルカウイを探し出したい米軍は、戦闘地域に残っていた住人に尋問します。

住人の話から、ザルカウイは「虐殺者」と呼ばれるファヌスにこの地を仕切らせていることを知りますが、軍がザルカウイに接近するよりも先に、ファヌスがその住人を殺してしまいます。

アメリカ人と関わった者は問答無用で殺すのが虐殺者の方針であり、それは米軍も承知していたことでした。

クリスの戦友たちにも負傷や戦死が続き、弟ジェフは抜け殻のようになって国へ帰っていきます。

最後までその腕が鈍ることはなく、伝説のスナイパーであり続けたクリスも、長年の戦闘に心身を疲弊し、帰国したアメリカでの平穏な生活に適応できません。

ひとりで家を守りながらクリスを待っていたタヤは、クリスの心は戦場から帰ってきていないと言います。

心のバランスを取り戻すきっかけになったのは、帰還兵を支援する活動でした。

しかしその活動が思いもよらぬ悲劇を招くことになります。

帰還兵の異常行動は外傷性か精神性か

「アメリカン・スナイパー」のテーマは戦場での兵士の活躍ではなく、戦争によって蝕まれていく兵士の心の問題です。

帰還した兵士がふさぎ込んだり粗暴になったりと、人格の変容を見せるケースは多く報告されています。

帰還兵に自殺が多いこともよく知られるところです。

慢性外傷性脳症(CTE)説

帰還兵の異常は爆風で脳が揺さぶられることによる障害であるとする見方もあります。

パンチドランカーと同じです。

脳にタウたんぱくの凝集が見られ、これが脳の働きを妨害して起きるのがパンチドランク症状であるというのが、現在有力視される説ですが、タウたんぱくの凝集は、頭蓋骨の中で脳が振動する経験を繰り返すことで起きると見られています。

この症状は、ボクサーに限らず、アメフトなどの競技でも多く起こるものだと分かってきた現在では、パンチドランクやボクサー脳症という呼称よりも慢性外傷性脳症(CTE)という名称が使われることが多くなりました。

参考:頭部外傷の分子イメージング:慢性外傷性脳症(CTE)と頭部外傷後精神病(PDFTBI)を中心に|高次脳機能研究

CTEについては映画「コンカッション」でよく分かります。

「コンカッション」はアメフト選手の引退後の異常行動は現役中の度重なる脳震盪に起因しているとつきとめるアフリカ系医師の物語です。

帰還兵に異常を示す者が多いことは第一次世界大戦のころから認知されていて、「シェルショック」と呼ばれていました。

しかし最近では、戦場体験者の異常は物理的な刺激によるものというより心的なもの、PTSDであるという解釈が主流のようです。

参考:メンタル・ヘルスをめぐる米軍の現状と課題

「脳の外傷という不可逆的なものが原因となると、兵士になろうとする人がいなくなるから精神的なものと言うことになったのかな?」と、斜めな見方をしかけたのですが、クリスが帰還兵のメンタルケアに注力していたことを思うと、「そうでもないのかも」と思い直しました。

クリス自身が、戦場体験が心につかえていると実感していたからこそ、第二の人生を精神的なケアに費やそうと考えたのだろうと想像がつくので。

戦場での極度の緊張、日常的に目にする爆発や炎、血や死体。

苛烈な体験は兵士の心に深い傷を残し、後の生活に支障するということなのでしょう。

映画の終わりで、「クリスは助けようとした相手に殺された」とだけ出てきますが、あの日クリスは、PTSDに苦しむ元海兵隊員と射撃場にいたところ、突然銃を向けられ撃たれて亡くなったそうです。

その帰還兵はたびたびパニック発作や自殺未遂を起こすなど、重症のPTSDだったとのこと。

(弁護側は心神喪失を主張しましたが裁判は有罪になりました)

事件についてはクリスのWikipediaに少し出ています。

映画の脚本が書かれている最中の事件でした。

日本兵の戦闘ストレス障害

ところで…

日本にもたくさんの戦場経験者がいました。

手りゅう弾の投げ合い、爆弾投下、白兵戦も。

でも日本兵のPTSDの話を聞いたことがない気が…

私だけが知らないのかと思って検索したら分かりました。

日本兵の戦闘ストレス障害は隠されていたのですね。

ちょうど今年2018年の夏にNHKで特集が組まれていて、NHKオンデマンドで見られました。
「隠されたトラウマ~精神障害兵士8000人の記録~」

日本には精神障害を発症した兵士の専門病院があったのですが、診療記録を破棄せよとの群からの命令があり、戦闘ストレス障害の悲劇は隠ぺいされてきました。

患者さんの記録が現在確認できるのは、重要な資料であるカルテを捨てるわけにはいかないと考えた当時の医師らが土に埋めてひそかに保存していたからです。

番組には痙攣を起こす兵士の映像も出てきますが、その様子は以前にどこかで見た第一次世界大戦戦士のシェル・ショック症状の動画とそっくりでした。

戦地から病院へ送致された人が実は大勢いたことは分かりました。

でももうひとつ疑問が。

太平洋戦争では民間人の多くが招集されて戦地へ赴いています。

うちの爺ちゃんもそうでしたし、健康な成人の大部分が戦場へ行ったと聞きます。

生き残った方々は帰国あるいは帰郷して家族と一緒の生活を再スタートしたはずです。

ちょうどクリスのように。

でも出征して戻った人が別人のようになっていた話や、うつ、異常行動などPTSDらしい症状を見せた話を聞いたことがありません。

これも私が知らないだけで、どこかにはそんな話が必ずあると思いますが、あまり多くはないように思います。

あの戦争では、帰還した日本も大変な状況で、ふさぎ込む間もなかったのかもしれません。

行動の変容にしても、多少の異常なら本人も家族も気に留める余裕がなく、あったとしてもそれで病院を受診するなどと考えもしないまま、時の経過によって多少楽になる人もいた、とかそんなところでしょうか。

しかしストレス性の疾患はそんなに甘いものではありません。

多忙でごまかせるのは一時的なもので、蓄積されたダメージは長くつきまとい、いずれそのひずみがどこかに現れるものだなと、色々な人の話からそう感じます。

抑うつ状態などの場合、ずっと、もしかすると死ぬまで、黙って耐えいていた人が大勢いるのかも。いえ。絶対にいるでしょう。

どの国の戦争であっても、戦争の勝敗がどうだったにしろ、戦争の意味がなんであれ、兵士の捧げる犠牲は一生ものです。

その犠牲を知り、兵士を敬うことは、反戦の心と矛盾するものではありません。

「アメリカン・スナイパー」は、戦争を美化する映画ではありませんし、反戦、好戦と分類する作品でもありません。

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